人生なんて孤独でみじめで悲しいもの、ダックスフントも人間もそれは同じ。
可愛いワンコ(♀)が飼い主の勝手な都合でヒドい目にあい続ける話…?
個人的評価:★★★★★★★★★☆☆ 80点
Wiener-Dog
2017年01月14日公開/88分/アメリカ/映倫:G
原題:WIENER-DOG
監督:トッド・ソロンズ
出演:エレン・バースティン、キートン・ナイジェル・クック、キーラン・カルキン、ジュリー・デルピー、ダニー・デヴィート、グレタ・ガーウィグ、トレイシー・レッツ、ゾーシャ・マメット

五年ぶりになるトッド・ソロンズの新作です。いやーもう大満足。毎度のことですが今回も露悪的な内容。なので賛否はあるでしょうが、個人的には傑作だと思いましたよ。すごく面白かったです。『ダークホース』では「皮肉な笑いが好きなんだ」ってことをネタにしていましたが、ますます開き直っていってるような気がします。犬好きの方が観たら激怒するようなオチでしたー。

Wiener-Dog003

あらすじ

病気がちな子供を持つ母親(ジュリー・デルピー)は、ダックスフントを新しく家族として迎えるものの、あまりにも問題ばかり起こす子犬に音を上げる。結局その子犬は色々な家庭をたらい回しにされることに。子犬は映画学校の講師を兼任するピンチに陥った脚本家(ダニー・デヴィート)や、ひねくれた女性(エレン・バースティン)のところを渡り歩き……。
(以上シネマトゥデイより)

Wiener-Dog012

感想

4つのエピソードを描いたオムニバスに近い作品だと思います。主人公は飼い主から次の飼い主へと渡り歩いてゆくダックスフント。元ネタはブレッソンの『バルタザールどこへ行く』だったようです。そちらの主人公は一頭のロバで飼い主に振り回されながらも苛酷な旅を続けてラストでのたれ死んでしまう…というブラックコメディです。ソロンズの犬は美しく眠るように死んだりはせず、どストレートな死にざまでした!笑っていいのかダメなのか迷うような…そんな映画です。犬が主人公と書きましたけど、おそらく実質の主人公は犬を取り巻く”腐った人間たち”でしょうねー。

Wiener-Dog001

最初の飼い主は小児ガンを患った少年レミ。彼の父が誕生日にダックスフントをプレゼントしてくれるのです。すぐに仲良くなるレミでしたが、犬のエサにグラノーラ・バーを与えたことで大変な事態に……。結果的にはそれが原因となりダックスフントを手放さなければならなくなってしまうのです。

いつものように今回も冴えない人間しか登場しません。人々は各々なにかしら問題を抱えており、いつもなにかに悩み苦しんでいる…。

Wiener-Dog017

少年の母親役のジュリー・デルピーは最高でした。いちいち毒々しいっていうか、犬への愛情がなくて面白かったですね。「去勢」とか「安楽死」の説明も雑だし、言ってることは正しいんだけど伝え方が最低で…。久しぶりに見たら下半身デブのしわくちゃオバサンに変貌していたのも衝撃的でした。役作りのために美貌を崩壊させちゃったんでしょうか…。デルピー完全に太ってた。

父親役には『KILLER JOE』を書いた劇作家トレイシー・レッツ!(好き!)

Wiener-Dog002

ファレリー兄弟でもやらないようなウンコ描写はサイテーすぎて最高。長々と映し続けて『月の光』流すから、ここのシーンはさすがに馬鹿かと思った…。しかし”不快”を表現しているのなら上手くできているのかも!

「お前らドビュッシーかけときゃ美しく見えるんだろ!?」という皮肉かな。

boyhood

どうでもいいけど似てた。『ストーリーテリング』では『アメリカン・ビューティー』のパロディなんかもやってたし、これもそうなのかな…?

内容は真逆といってもいいかも。ってか、単に似ちゃっただけだと思うけど。肝心な部分が描けてないぞリンクレイター!というあてつけならスゴイ。

Wiener-Dog004

その後、レミの両親はダックスフントを安楽死させることを決意して、地元の動物病院に預けることとなるのですが…。そこで働いていた助手のメガネ女子が犬を抱えて脱走してしまう!彼女のアダ名は”ウィーナー・ドッグ”(犬面)

Wiener-Dog005

最初にグッときたのはやっぱり「ドーン・ウィーナーが生きていた!」ってことですねー。ドーンといえばソロンズの劇場デビュー作『ウェルカム・ドールハウス』の主人公だったメガネの女の子です(あの頃はまだ小学生でした)。『おわらない物語 アビバの場合』の冒頭はドーンの葬式でした。なので、彼女は自殺して死んだのだと思っていたのですが、実はまだ生きていたのです!!獣医の助手として元気に働いているなんて!!(役者はヘザー・マタラッツォからグレタ・ガーウィグに変わっていましたが…)

Wiener-Dog018

もうそれを確認できただけでも嬉しかったですよ。その上、当時は彼女をいじめていたブランドンも登場。二人はスーパーでバッタリ再会し、最終的には、なんとなくイイ仲に…。ブランドンにダウン症の兄弟がいたという事実も驚きでしたし、演じていたキーラン・カルキンも合っていたと思います。一見するとボンクラに見えますが、寂しげで目に光がない感じがとても良かった。

第2話は比較的希望に溢れる終わり方。登場人物たちが前に進もうとする意欲も多少感じました。まだまだ続きそうな話だし次作があるのなら次も見たい!

Wiener-Dog008

世の中にはダウン症や障害者だっているわけで、そういった人達を排除せずに登場させるトッド・ソロンズはやっぱり愛に溢れた映画監督だと思いますよ。良くも悪くも無差別なんじゃないのかな。夫婦がダウン症のために避妊治療を受けさせられているというのは強烈な一撃でした。犬にも人にも子供にも老人にも容赦なし。しかし、これが現実だし、”普通”なんでしょう。世界は残酷。

Wiener-Dog010

個人的にはダニー・デヴィートが主役の第3話目が一番面白くて好きでした。脚本を売り込もうと必死になるがプロデューサーに軽くあしらわれてしまい、講師を勤める映画学校の学生たちには小バカにされる。みじめで悲しい老いた脚本家が爆弾犯になるまでのストーリー。泣きたくなるくらい冴えない小男。けど、おかしくて笑ってしまう。よくできた喜劇だと思います。

若い頃に一本だけ映画を当てた老人を嘲笑う学生、彼もまた一本の映画が当たっただけの人間なのです。老人と同じような人生を歩むことになるかもしれないが、将来に不安などは感じていない様子…。全体的にはシニカル全開な内容なんですが、この辺のリアリティが一番あったかなー。「好きな映画は?」と問われて「大量に観すぎて思い浮かばないなあ」と延々と続ける学生なんかは単純に「こういう奴いるよなー!」って感じだし、しつこくて面白い!

ソロンズは長編デビュー作『Fear, Anxiety and Depression(恐れと不安と憂鬱)』でウッディ・アレンと作風が似てると言われたことを未だに根に持っているんでしょうか…。アレンが”前時代的”とか”化石”だとか台詞でボロクソに言わせちゃうのはそのまま自虐ネタになっているわけで…NY大学で教鞭をとっている監督ですし、脚本家のモデルはソロンズ自身に間違いないでしょうね。「俺の悪口を言う批評家は爆死させるぜ??」っていうことなのかなー(違うと思うけど)。マジで最高。

Wiener-Dog013

最後の飼い主はエレン・バースティン。豪華なキャスティングですよねー。

Wiener-Dog014

人生は枝分かれした選択肢を諦めていく作業なのです…。もし○○していたら現在はどうなっていたのだろう、と過去を悔いるように未来を見つめるエレン婆。もし芸術の勉強を続けていたのなら、孫に金を無心するだけの虚しい今も存在しなかったのかもしれない。ヌードモデルになって股を広げる人生は本当に正しかったのだろうか…?

死が近付いてくるとこんな心境になるのかも、とも思えましたが、なんとなく虚しいエピソードでした。人はいつでも後悔している生き物だし、それは死ぬまで終わらない…。あまりにも哀しくて虚しくてやるせない。

けど、きっとそんなもんなんでしょうね…。人生はなるようにしかならない。どれだけあがいたところで脚本家が考える「もしも・どうする」が通用しないのがノンフィクションの世界。オムニバス方式のように見えて、実はそれぞれ微妙に繋がっているのも面白かったです。第4話で犬は「ガン(cancer)」と名付けられていましたし…。それにしても、過去の自分が死ぬ間際にお迎えに来るって…イヤだなあ、会いたくない。悪夢でしょ!

Wiener-Dog015

ラストでダックスフントはトラックに轢き殺されてペチャンコになりました。その後も後続の車にしつこく何度も踏み潰されて(4回だけだけど)、死骸の皮は再利用されてロボットになりましたとさ………おしまい。

Wiener-Dog016

キレイゴトばっかり見たいわけじゃないですし「あー現実ってこうだよなぁ」と思わせてくれるトッド・ソロンズの視点はやっぱり面白い。ハリウッド映画が描かない(こともないけど)悲惨な現実を過剰に誇張しすぎずストレートに見せてくれている感じがします。犬がトラックに轢き殺されて死ぬなんてことリアルでは日常茶飯事だろうし、まあ、カワイソウではあるんだけど、人生が終わる瞬間だって似たようなものなんでしょう…。

アンモラルな終着点を想像すれば逆に予定調和かもしれません。ですが「人間って素晴らしい」みたいな安易な結末に落ち着かないのは、個人的に好きですね。死んだら全部が終わり。死体が何に利用されようと知ったこっちゃないですよ。それは人間も犬もどんな生き物も同じ…。

大オチは、正直「そこまでやる!?」って気もしましたけどね(笑)。

toddsolondz

登場するのは”普通”(以下?)の人間たちです。人間なんて誰でも不幸を抱えているもので、人には言えないネガティブな部分を包み隠さず切り取って映像化しちゃうのがトッド・ソロンズなりの優しさなのかなと勝手に思ってます。他人の不幸を見て激昂したりウンザリしちゃう人も多いとは思いますが、それを見て救われる人だっているわけで、そういう人に向けて作品を撮り続けているんですよね、たぶん!

ソロンズの映画にいつも感じることは、ネガティブな人間(小児ガンの少年、犬面の処女、シャブ中の元いじめっ子、ダウン症の夫婦、苦悩する脚本家、メクラの老女など)を肯定してくれるような優しい視点と価値観のフラットさ。そこは全作品に共通しているような気がします。誰にでも生や死や幸や不幸は平等に訪れる、さらに言えば「良い」や「悪い」が無価値であるということ。人生にやたらと意味を付けたがる…そんな映画への皮肉にも思えます。

そういう点も今回はキッチリ一貫していたのかなと。安心しました。
・・・ということで、大傑作。

Wiener-Dog007

ちゃんと首チョンパも見せてくれた!(サービス精神としか思えない)

Wiener-Dog009

あと、インターミッションも最高でしたよ。88分しかない短めの映画なんですが、中盤で休憩時間があるのは笑いましたわ…。トッド・ソロンズってこんなベタなギャグもやるのか!ってことで嬉しくもあり、おかしかったですねー。その間ダックスフントはいくつかの修羅場を渡り歩きながら飼い主から飼い主へと荒野を放浪。いやー面白くないんだけど笑っちゃう。


↑予告


ウェルカム・ドールハウス [DVD]


ドーンが出てます。

ハピネス [DVD]


トッド・ソロンズの最高傑作!