近代文明の消滅を描く、厳しくも美しい映像集。
この風景を旅することは、人類必須のテーマである。
個人的評価:★★★★★★★★☆☆ 80点
Homo Sapiens
2017年03月04日公開/94分/オーストリア・ドイツ・スイス
原題:HOMO SAPIENS
監督:ニコラウス・ゲイハルター

「こんなこと思ったよ!」ってことを書いているだけの感想。ちょっと特殊な映画だと思いました。観る前に知っていたのは、監督が『いのちの食べかた』を撮った人で今回は廃墟のドキュメンタリーであるということだけ。廃墟は元々けっこう好きです、写真集を眺める程度ですが。

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あらすじ

『いのちの食べかた』などのニコラウス・ゲイハルター監督が、およそ4年の歳月を費やして世界各地に存在する70か所を超える廃虚の撮影を敢行。人々の姿は消え失せ、緑に覆われ、鳥が飛び、風が吹きすさび、朽ち果てるのを待つだけとなった廃虚の数々。団地群、テーマパーク、劇場など、かつて活気づいていた場所は……。
(以上シネマトゥデイより)

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感想

登場するのは世界70箇所の廃墟のみ。人物はひとりも登場せず、ナレーションも字幕も劇伴も一切ありません。カメラは固定。一定時間(30秒ほど)で次のカットに切り替わり、ひたすら廃墟を映し続けるだけの一時間半。

良い映画だと思いました。すごく好き!

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個人的にはこんな作品は初めて観ました。廃墟映画の傑作だと思います。こんなの映画じゃない!という人がいるのかいないのか知りませんが、こういうのも映画だと思います。けど、所謂「映画的な映画」ではないかもしれない。

本当にただ映しているだけなのでカメラが動いたりはしません。なので、写真のようでもありスライドショーに近い気もするんだけど、映像なので当然時間は流れます。それから、よく見ると実はいろいろ動いています。目立った動きはありません。埃が舞ったり、木々が揺れたり、雨が降ったり、それくらい。音はいろいろこだわっていたようでその場にいるような臨場感がありました(人間が動く音などは編集の際にすべて除去したらしい)。

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見始めて20分くらいは正直「ナニコレ…これがずっと続くの!?」って感じだったんですが、それが意外と新鮮でした。娯楽感はまったくないといってもいいかもしれません。面白くしようとする素振りが見られないというか、なぜにこんなものを撮ったの?という疑問さえ浮かびます。それだけに、監督の意図などをいろいろと考えざるを得ないというか、画がほとんど動かないからこそ想像力をかきたてられるという感じかも…。

画面に映る映像は固定カメラで正面の風景をただ撮っているだけです。演出が何もないというのか、「何もしないことが演出」だったのかも知れません…。誰でもできるけど誰もやらない演出がすごいのかどうかはわかりません。が、個人的にはこういうのがあってもいいんじゃないかなーと思いました。大胆で面白かったし、潔さも感じました(序盤で頭の中に”手抜き”の文字が浮かんだけどすぐ消えた…)。それから、誰かがこの映像を撮っているという作為的なものをほとんど感じないのも良いと思いました。そのためかは分かりませんが映像世界への没入感は強かったです。

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よくSF映画で「人類が滅亡した世界」(のようなもの)が描かれます。しかしだいたいは生き残った人間がいて、ストーリーがあって、ドラマがあったりします。本当に「人類が滅亡した世界」を描こうとすると、もしかしたらこうなるのかな…と本作を観て感じました。ということなので、個人的にはこれ以上ないくらいのディストピア感覚に浸れた作品。なので好き。良い。

何が良いって、人間がいないのが良い!そこが最高!

廃墟の空気に人間の気配が混じってないのが良い!

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僕はこの映画を観て、世界各国を旅している感覚になりました。旅の目的は自分以外に生き残った人間を探すことであり、そのために世界を回っている、という感覚。何らかの事態(核戦争とか)が起こり世界は滅び、人間は死に絶えてしまった。残ったのは自分だけ。何ひとつ言葉で語られることがないため、これはただの個人的な妄想です。

絶望的な孤独から誰か他の生存者を探す旅に出ます。そして、世界を歩き回ることに…。しかしどこへ行っても誰もいない。映し出される映像は廃墟ばかりです。ただ荒れた土地というよりは「以前は人がいたらしい形跡の残る現在は誰もいない空間・場所」といったほうがいいかもしれません。場所が変わる毎になんだか絶望的な気持ちになっていきました。「ああ…やっぱもう誰もいないんだ…みんな死んだんだな…」みたいな。人類がいなくなった世界でひとり孤独に突っ立って廃墟を眺めている感覚です。廃墟っていうか人間の痕跡。

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ですが、鳥はいるんですよねー。登場人物はいませんと書きましたけど、登場する動物はいます。「あ、鳥はいるのか!」と気づいた途端になんか救われた気分になるというか、この世界が心地よく思えてきて、いやーなんかうまく説明できないしコレ狙ってやってんのかどうかも分かんないんですけど、とにかくちょっと楽になりました(笑)。伝わんないと思うけど。

ハトが希望の象徴として登場する映画は多いと思うのですが、今回も本当にそれで、生き物がまったく映らない映画だったらさらに絶望していたように思います。鳥を見てマジで泣きそうになったんですよ。あ、ひとりじゃないんだな俺って…(なんかすごくキモい感想だけど)。

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登場した廃墟は、下のような場所。ほんの一部です。
  • 【メソジスト教会】(アメリカ・インディアナ)
  • 【ヴィラ・エペクエン】(アルゼンチン)
  • 【ローラーコースター】(アメリカ/ニュージャージー州)
  • 【端島・軍艦島】(日本/長崎県)
  • 【ベルギー冷却塔】(ベルギー/モンソー=シュル=サンブル)
  • 【ザッケ・ヒューゴ炭鉱】(ドイツ/ノルトライン=ヴェストファーレン州)
いくつか知ってましたが、ほとんどが知らない廃墟でした…(笑)。全体的にシンメタリーな構図のものが多かった気がします、どれもホントに美しかったし退屈はしませんでしたよ(個人的には!)。

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日本の風景が序盤にあることで世界が近くに感じられた気もします。自転車置き場など特に。で、後半の軍艦島で「帰国したー!」みたいな心境に。最初の廃墟は福島だったようです。現場が現場だけに選ばれたのも納得という感じ…(福島だったってことは観終わってから知りました)。

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おそらく世界で最も有名な廃墟である【ブルガリア共産党ホール】(ブルガリア/バルカン山脈)から映画が始まり、最後はまた同じ場所に戻ってくるという構成になっていたと思います。ただしラストシーンでは全面に雪が降り積もっており、吹雪によって画面が真っ白になったところで映画が暗転し、終了。

人類が滅びた世界で地球最後の人間である主人公(観客)がラストショットで力尽きたようにも思えました。何か、すべてが終わったような…そんな感じ。まあそもそもこの視点が人間のものかどうかも判断できないし、アレですが。とにかく素晴らしかったです。人にはなかなか薦めづらい作品かもですがー。

感想を見ていたら「ひたすら雨乞いしてたと思うと笑える」という意見があって、これには「たしかに!」と思ってしまいました。そういう発想好き。

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それにしても美しかった。たまらん…。


↑予告